【Act27-ビビリは戦場へ行きます。】







外殻へ戻ってすぐ、目に飛び込んできた光景に愕然とした。
アルビオールの窓にビタッと張り付いて、震える手で眼下の惨状を見下ろす。

なんで、なんで、なんで。


「どうして戦いが始まっているのです!?」


ナタリアさんの言葉が艇内に響く。
そうだよ、戦争を起こさないためにもってみんなみんな頑張って、
ルークやナタリアさんだって、あんなに頑張っていたのに。

額をガラスに押し付けたまま、じわりと涙が浮かんでくる。
それがいよいよ零れようかというときに突如 後頭部を殴打された。


「むぶぉっ」


当然ながらガラスに顔前面を打ち付け、痛む鼻を押さえながら肩越しに後ろを振り返る。


「うう、ひぇいろさぁん……」

「何 情けない顔をしてるんです」


なんだか最近怒る手段に打撃が増えてませんか。
少し前はもっと間接的というか、術系が多かった気がする。
いや、まぁ、術も容赦なくもらっているので当社比には違いないけど。


「頭を冷やしなさい、泣いている暇はありませんよ」


そう言って大佐は身をひるがえした。
そしてみんなの話し声を聞きながら、俺は少し落ち着いて考えてみる。


あたまをひやせって、そういうことだ。
ぐいと目元を拭う。

そうだよ、諦めてる場合じゃない。
事が悪い方向へ運んでしまったからこそ、やらなきゃいけないことがたくさんある。
戦争が始まってしまったというなら、今度は一刻も早く止めないと。


俺がめげてる間にもみんなはどんどん前を向いて歩き出して行く。
気づいた時には、対崩落のエンゲーブ組と、対戦争のカイツール組に別れて行動することに決まっていた。

ああもう俺のバカ。俺のアホ。俺のオタオタ。
慌てて会話に加わろうとした俺の動きを見計らったように、大佐がこちらを向く。


、貴方もエンゲーブに同行してもらいます。
 キムラスカの説得に行くのに、マルクト兵が混じっていては火に油でしょうから」

「あ、はいっ」


とっさに敬礼を返すと、大佐はすぐみんなのほうに向き直ってしまう。

結局、またジェイドさんに何とかしてもらってしまった。
教えてくださいユリアさま。 頼りになる人間ってどうやってなればいいんですか。
俺レプリカだから分かりません、なんて言い訳は、とてもじゃないが通じそうに無い。


……俺、ビビリだから分かりません……。


そう正直に言ったところで、返ってくるのは呆れたような溜息だろうか。









エンゲーブへは、ジェイドさん、ルーク、ティアさん、俺、で向かった。

そこでローズさんに話をつけた結果、
ケセドニアまで避難することになったのだが、とてもじゃないが全員アルビオールに乗る事はできない。
何回かに分けるといっても限度があるだろう。 あまり時間もないし。

なので老人や女性、子供以外の体力がある男性陣は、護衛の下に徒歩でケセドニアを目指す事になった。


そんなわけで俺達は徒歩組の護衛に付くのだが、
俺は後方の駐留軍の方々に混ざろうとみんなに背を向けたとき、襟がグッと引かれた。
チュンチュンが木にぶつかったような声が喉から漏れる。 なんだろうすごくデジャヴだ。


「こ、今度はなんですか」

「あなたには先頭に立ってもらいます」

「せんとう!?」


戦闘に出てもらいますでも 銭湯に行ってもらいますでもなく、先頭。
しんがりをやることはあれど、先頭に立てと言われたのは初めてだ。

目を白黒させる俺を見据えた大佐が、にっこりと笑う。
嫌な予感が背筋を突き抜けた。


「敵の気配とか怖そうな物の気配にだけは鋭いでしょう、
 悲鳴は一切上げずにそういう気配だけ察知してください」


確かに、確かに 俺は敵の気配には人一倍敏感だ。 ビビリだからだ。
風や草のそよぐ音の変化をそういうときだけは感じ取れる。

もう一回言うけどそれは俺がビビリだからで、
つまり怖いのが嫌だからそうなってるわけなのに、わざわざビビるために怖い場所へ行けと。


「あの、それはちょっ……」

「いやぁ頼りにしてますよ臆病者!」


念願早くも叶い、ジェイドさんに頼ってもらえた。
頼ってもらえたんだが……何か……違う気が……。



拭いきれぬ複雑な思いをそのままに、俺は子鹿の歩みで前へ進み出た。








「だんだん打撃が増えてきたジェイドさん」
ツンデレにはどうでもいいやつにツッコミを入れてやる優しさはありません。

だからわりと良い傾向。 パパ化が進んでいくよ。