【Act14.2-風は勢いを増しています。】






「さあ “愚かなレプリカルーク” 力を解放するのだ!」


背筋が、ぞくりと粟立つのを感じた。



あふれ出した力。

その直後、皮膚の表面に掛かった圧力を感じた瞬間、
俺はとっさに隣にいたイオンさまの腕を引いた。


そしてあっけなく吹き飛ばされた俺たちの体が後ろの壁にぶつかって止まる。

ぐ、と短い呻き声が自分から零れたのが分かった。
体を押さえつけていた衝撃波が消えて、ずるりと地面に落ちる。

抱え込んだイオンさまを潰さないように肘でなんとか自分の体重を支えながら、
俺は不謹慎ながらもちょっと笑い出したい気持ちになっていた。


だって、庇えた! とっさに庇えた!
俺の体にしちゃ上出来だよ!

大佐が聞いたら、おそろしく低い目標ですねぇ、なんて呆れられそうだけど。
ていうかミュウ庇えてない。 庇いきれてないよ俺。 ごめんミュウ。

だけど、進歩だ。

零れかけた笑いは体の痛みに止められた。
思わず再び呻くと、イオンさまが焦ったように俺の名前を呼んだ。


! ……ルーク! ヴァン、止めてください!」


飛び出そうとするイオンさまを残った力で抱きとどめる。
危ないですよイオンさま。ていうかなんか俺も危ない。
背中が恐ろしく痛いし、息がすえない。


、離して……横になってください! !」


思考半分お花畑だけど、イオンさまを止める腕だけは緩めない。

ぼやける視界に映るのは、動揺しているイオンさまと、向こうにルークさん。


そして、ヴァン謡将。


目があったほんの一瞬。
その冷たい青は、何も映してはいなかった。


俺は今までずっと無意識に感じていた恐怖の理由に気がついたと同時に、あらためて実感する。

あのひとは、怖い。

くずおれるルークさんの姿と、
ルークさんに似た怒声を聞いたのを最後に遠くなる意識。


ああなんか物凄くやばそうなんだけど、イオンさまだけは、守らないと……

やがて、視界が途切れた。











 ずパンッ!


平手打ちで目覚める朝はあまり清々しくないと思う。

……ていうか、ていうか、


「本気でイッタいんですけど大佐ぁあああ!?」

「おや、生きてましたか」

「生きてますよ!」


なんか背中痛いけど。

反射的にそう言い返すと、大佐は ふぅと息をはいた。
息と同時に赤い目から少し厳しさが抜けた理由を俺が察するより先に、大佐はにっこりと笑って告げる。


「ならイオン様を離しなさい。二人そろって死にたいですか?」


ごめんなさい死にたくないです。

そこで俺はイオンさまを抱え込んだままだったことに気付いた。
慌てて腕を離すと心配そうな緑の目が俺を見るも、すぐそれる。

今の状況が会話どころじゃないということに俺もようやく気付いた。


崩れゆく壁、落ちる地面、揺れる世界に、響く譜歌。
大佐に言われるままに俺もイオンさまと一緒に響長の傍まで行く。

そこにはすでにみんながいて、
ルークさんがガイに抱えられていて……あっ、良かったミュウも無事だ。


「…………」



ていうか、ていうか、ていうか、



「俺たちどうなっちゃったんですかー!?」

「死ななかったら後で説明してあげますからとりあえず黙りなさい」

はいっ!


なんかもう頷くしかない。
じくじくとした背中の痛みをそのままに、泣きながら正座した。



た、大佐、おれ頑張ったんですよっ!!






「あとでちゃんと聞いてくださいね!」(By.

短く外殻大地編 最終話。

どこまでも緊迫感の出ないアビ主。
ひっそり安心してるジェイドパパン。




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