「差し上げますよ、その書類の内容は全て覚えましたから」
襲撃、襲撃、また襲撃。
嫌な展開の連続で とっくにガタが来ていた俺の理性は、
「ムキー!! 猿が私を小馬鹿にして!」
その瞬間 見事に限界をむかえた。
「ジェイドさんをバカにすんなー!!!」
【Act9.3-終点はバチカルです。】
そう叫んで、宙に浮く変な人に涙目で指を突きつけると、
ぎょっとしたような視線がみんなから注がれる。
だけど俺はこのとき本当にいっぱいいっぱいで、その事にすらろくに気付かなかった。
いや、そもそも正気だったら六神将にこんな態度取らなかっただろう。
後で考えたら卒倒ものだ。
しかし残念な事に、このとき俺は正気じゃなかった。
ジェイドさんの前に進み出て、六神将ディストを睨みあげる。
「何ですか、貴方は?」
「うっさい!いいからジェイドさんの悪口いうな ハゲ!」
「ハゲてませんよ!
何です その相手の特徴を掴まない罵倒は! 幼稚園児ですか!?」
「ハゲ! おかめ! 変態!」
「だーかーらーぁ!!」
「ああ、最後のは的を射ているかもしれませんねぇ」
「アンタがそれを言うか」
後ろから聞こえてくるジェイドさんとガイの声も何のその、
頭に上りっぱなしの血は一向に下がってこない。
すっかり椅子の上に立ちあがっていたディストが、
痺れを切らしたようにダンッと椅子を強く踏みしめた。
「というか、貴方 ジェイドの何なんですか!」
夫の浮気相手を問いただす妻のように叫んだディストに、俺のこめかみも引きつる。
「お前こそジェイドさんのなんなんだよ!!」
さっきは親友だとか言っていたけど。
ディストなんて名前 聞いた事無いじゃないか、と思ったところで、
ほとんどジェイドさんの過去を知らない自分に気付いた。
聞いたとしてもそれはゼーゼマン参謀総長やピオニー陛下からのもので、
ジェイドさんの口から聞いた事は、まず無い。
分かってた。分かってたさ そんなん。
分かりきった事だけど、あらためて気付くと言葉に出来ないミジメさが体中を渦巻いた。
「っジェイドさんはなぁ!」
新たに浮かんできた涙をそのままに、俺は鋭くディストを睨んだ。
「確かに底意地悪くて陰険で悪魔のようかもしれないけどなー! 優しいんだ!!
頑張ったら皮肉に混ぜつつ一応褒めてくれんだぞッ!!」
褒めてくれる、というところに反応したらしいディストが表情を歪めた。
「こっちだってジェイドに褒めてもらったことくらいありますよ! たぶん
それに、一緒に研究だってしました!」
研究。
今度は俺が ぐっと言葉に詰まる。
「どうです?
貴方のような凡人じゃジェイドの手伝いも出来ないでしょう?」
「て、手伝いくらい出来る!! たぶん 」
お茶くみとかお茶運びとか差し入れとか。
「お前こそ、うたた寝してるジェイドさんとか見た事あんのか!?」
「う、うたた寝……」
「そうだ! 鬼のような仕事の合間とかで、たまにな!」
二年に一回くらい。
「いつもかっこよくても中身がアレなせいでプラマイゼロなところを、
うたた寝してる時はマイ部分が見えないからすごく綺麗なんだぞ!!」
どうも見た事がなかったらしく、ディストが悔しげに唸っている。
優勢らしい雰囲気を感じて、ここで一気に畳み掛けようと俺は拳を握った。
「それに性格のほうだってアレだアレだというけどな!
まぁさっきも言ったけど、ジェイドさんは本当に優しいんだ!
優しいって言ったらルークさんも優しいんだぞ!
俺がジェイドさんに怒られるとこっそり慰めてくれるんだ!
元が意地っ張りだからものすごく分かりづらいけど慰めてくれるんだぜ!!
それに俺は過去じゃない今のジェイドさんをいっぱい知ってる!
最近通ってる酒場とか、わりとお気に入りの譜術とか、好きなカレーの味付けだって知ってるぞ!
どうだ!!」
胸を張り相手を指差しながら勝ち誇る。
その先でディストが「……くっ」と うなだれたのを見て、俺は笑顔で後ろを振り返った。
「やった!勝ちましたよ!!
ジェイドさ――」
勝利の結果、
俺は公爵子息とマルクト軍 大佐に秘奥義を持って海に叩き落されました。
「頭を冷やしなさい!」 by.ジェイド
ディストとジェイド大好き合戦。
うっかり混じったルークさん大好き論。
普段は傍にいられるだけで構わないと思ってても、あらためて見せ付けられると悔しいアビ主。
あんたあの人の何なのさ(×2)あたりからOVLゲージが上がり出してた大佐。
そして完全に とばっちりの公爵子息。
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