【Act49-いま、会いに行きます。】











連絡船キャツベルト。


頬をなでる風はバチカルの屋敷で受けるさっぱりとしたものとは違い、
海から巻き上げられる潮をはらんで皮膚や髪に張り付いてくる。

だがこちらのほうを心地よく感じるようになった自分は、あの旅の中で少しは変われたのだろうか。
少なくとも昔のルークなら決してこうは思わなかっただろう。


べたべたして気持ちわりぃ、がいいところだったかと前の自分を振り返り苦笑したところで、
足元のミュウがきょとんとした顔でこちらを仰いだ。


「ご主人様、皆さんのお手紙読まないですの?」


言われて思い出す。
父の命令で止められていたという皆の手紙を、ラムダスからひったくるように取って出てきたのだった。
一応 屋敷を出たところで誰から来たかだけは見たのだが。


「そうだ、そういえば」


自分宛の四通の手紙。
その一番後ろにあったブウサギ柄の封筒を取り出した。


「ほらミュウ見ろよ! からだ!」

「みゅ?」


改めて差出人名を確認して表情を輝かせ、その封筒を空に掲げる。

無事であることは伝達の兵から聞いたものの、
色々と慌ただしくて結局 顔を見ることなく別れてしまった仲間。
最後の記憶が血の気の引いた青白い顔であったからだろう、どうしているかと気にしていたのだが。


封を開けて、おそろいのブウサギ柄をした二枚の便箋を取り出した。
そして文面をざっと流し見て、あれ、と目を丸くする。

あの男の事だ。
きっと近況がウザイほどに書き連ねてあると思ったのだが、


その手紙には、

心配をかけたことへの謝罪。
外殻降下成功を祝う言葉。
最後にルークの近況や体調を伺う文章。

それらが、わりと簡潔な形で書きあげてあった。


「……あのとき頭でもぶつけたかな」

「みゅ〜、さんが痛くしたのはお腹ですの」

「いやそうなんだけどさ、なんかこんな落ち着いた文章、イメージに合わねぇっつーか。
 だってまるで貴族かなんか宛てみたいな……」


言いかけて、ふと気付く。

改めてその便箋をまじまじと見つめれば、そこには何度も書き直したような跡がうっすらと見て取れた。
その向こうにの考えや行動が見えたようで、ルークは思わず苦笑を零す。


「そりゃ確かにそうだけど。
 まったく、アイツ、前っからそういうの気にするのな」


まあの性格を考えれば分からないでもない。

“ただの兵士”が“ルーク・フォン・ファブレ”に(例え自分が本当の公爵子息でないとしても)手紙を送るのは、
それはもう並々ならぬ心構えを必要とすることだろう。


「バッカだよなぁ の奴。
 トモダチがトモダチに手紙送るのに何も問題なんかねーだろって」


笑み混じりに零せば、屋敷の中でこわばりきっていた気持ちが緩んでいくのが分かる。

ガイとはまた違うが、それでもルークにとっては確かにトモダチと呼べる相手。
離れていても途切れない繋がりあるという事は、想像以上に良いものだった。


他の仲間たちからの手紙も慎重に開封しながら、ルークは目の前に広がる広大な海に目をやる。


「楽しみだな、ミュウ」

「はいですの!
 それにご主人様がうれしそうで、ミュウも嬉しいですの!」


いつものとおり元気よく戻ってきた返事に、うぜぇ、と笑いながら、
ひと月ぶりに会えるだろうみんなの顔を思い浮かべた。



同時に僅かな不安が胸をよぎる。


あの旅を共にくぐり抜けた仲間達はどうしているだろう。

自分が屋敷で死んだように過ごしていた間に、手が届かないほど前に進んでしまっただろうか。
置いていかれて、しまっただろうか。



過ぎった思いに気づいたのかは分からないが、
ミュウが「ご主人様?」とその丸い瞳でこちらを見上げてきたので、なんでもないと首を横に振る。




「ま、会ってみりゃ分かる、か……」




海の向こう、その姿を表し始めたシェリダン港を前に、
ルークは風になぶられる髪をかきあげた。











レプリカ編開始。
不安なのはアビ主ばかりじゃないのです。







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