【Act32.3-俺が探すもの。】







「やあ、もう結構ですか?」

「うわあ!!」


いつのまにか目の前にきていた大佐に、ガイと二人で悲鳴を上げた。
初めての経験ではないが、どうしてこういうとき大佐には足音も気配もないんだろう。

とっさにガイに抱き付いたまま高鳴る心臓に涙目になっている俺と、
とっさに俺の肩に手を回してしまったまま目を見開くガイとを見て、大佐はにっこりと笑った。


「ジェ、ジェイドっ! おどかすな!」

「おや、そんなつもりはありませんでしたが」

「アンタ気配がないんだよ!」


やっぱり?

俺の勘違いではないことを改めて確認しつつ、はたと大佐の後方に目をやると、
そこには呆れ顔のルークたちが立ち尽くしている。


「何してんの、お前ら」


その言葉に、なぜか抱き合っていた俺とガイはぽかんと顔を見合わせた。


あ、あれ?









そして俺達は、ガイが思いだしたという事を聞いた。

失くしていた過去。
彼の女性恐怖症の、根底にあったもの。


「私、あなたが女性を怖がるの、面白がっていましたわ……ごめんなさい」


しゅんとしてそう言ったナタリアに続いて、
アニスさんとティアさんも謝罪の言葉を口にする。

そんな彼女達に、気にしないでくれ、と笑うガイに、俺も涙ぐみながらその肩に手を置いた。


「俺も……コーラル城のときは、ソッチの人かと一瞬でも勘違いしてゴメン……!」

「そうだな、それは全力で謝ってくれ


ガイが遠い目で笑みを貼り付ける。
なんていうかほんとゴメン。




それはさておき、他の六神将が来る前に急いでシェリダンへ向かわなくてはならない。
みんなで足早にダアトの町並みを歩きながら、俺は前を行くガイの背中を見つめて、少し顔を顰めた。

何も知らなかった、といえばそれまでだ。
だけどそれで済むことばかりでもない。


 
「やっぱり家族を奪われたら、許せないか?」


グランコクマを出て間もなく、俺はそうガイに聞いた。

そのときですら随分デリカシーのないことを言ったという自覚はあったが、
全てを聞いた今、それがどれだけ嫌な問いだったかということを思い知らされる。

傷口をえぐる質問だと知っていて、俺は聞かないと“分からない”。
自分だけでは分からないと、そう思っていた。

でも、違う。


 
「――テメェの頭で考えろ。じゃないと一生分からねぇぞ」


続くようにアッシュの言葉がよみがえる。

俺は結局、ビビリでしかなかったんだ。
自分の頭で考えることが怖いから、ぜんぶ他人に押し付けて、答えまで出させようとした。


「……ガイ」

「ん?」


足取りはそのままに呼びかけると、彼はいつもどおりの笑みを浮かべて振り返る。
そして前のときと同じように、俺共々 列の後ろに下がってくれた。

そのことにじわりと熱くなった目の奥を気付かれないよう眉間に力を入れながら、
横を歩くガイの顔をまっすぐに見返す。空色の瞳がそこにあった。


「俺、……オレさ、その」


自分でももどかしいほど滑らない舌を、ガイはただじっと待ってくれている。
ゆるゆると、拳を握った。


「自分で、考えてみる。
 いろいろ……うん、色々、まだ、よくわからないけど」


分からないのはお前だ、と脳内で突っ込みを入れる。
でもここで「なんのことだ」と聞かれても、俺は答える事はできなかっただろう。

それを察したのか、ガイはわずかに目を見開いた後、何も言わずに笑った。
くしゃりと頭を撫ぜられる。


突然の行為に思わず足を止めた俺を置いて、ガイは先を歩いていった。

目を皿のように見開きながら自分の頭に手をやる。


前にも何回か、同じようなことをしてもらった気がするけど、
どれも肩を叩くことの延長みたいな軽いもので、こんなふうに褒めるみたいにされたのは初めてだ。

そういえば、昔の陛下はよく俺の事を撫でてくれた。
今ガイがしたのとは程遠い、ぐしゃぐしゃと犬を撫でるみたいな奴だったけど。

ああ、ええと、いや、そうじゃなくて。


さっきまで出かけていた涙が引っ込んで、それと同時に顔が熱くなっていくのを感じた。
俺は再び、でもさっきより強く、拳を握った。





「……よしっ」


とりあえず、第一段階はクリアしたようだ。







神出鬼没のジェイドさん。 慣れちゃいるけどやっぱり驚く。

抱きつき合うアビ主とガイについては、雷に脅える子供とそれをなだめるお母さんの図を想像してください。
中身おこちゃま+おふくろ体質。

ガイに褒めてもらえた=今度は正解?という思考。
だから完全に自分の頭で考えるには至ってないものの、0.5歩ずつは進行中。