【Act29-一難去って難乱れ打ち。】







体を芯から震わせるような地響き。
徐々に大きくなる揺れを感じて、いよいよだ、と息を飲む。

崩落が始まった。 みんなは間に合ったんだろうか。
エンゲーブの方々の避難も済み、アルビオールの傍で共に待機していたノエルと顔を見合わせる。

緊張で力の入らない両手を動かし、なんとか胸の前で組んでみせた。
もうこうなると祈る相手は神様じゃない。


「ジェイドさんジェイドさんジェイドさん……」

「効きますか?」


わりと必死に彼の人の名前を唱える俺を見て、ノエルはちょっと苦笑気味に言う。

祈るって信じることだ。
そして俺が信じているのは、不特定多数の神様より、ローレライより、始祖ユリアより。


「もちろん! ジェイドさんの呪いの効力は絶大なんだよ!」

「あ、ご加護じゃないんですね……」


うん。呪い。





大地がゆっくりと魔界に着水したのを確認したら、
どうも気が抜けたらしく、いつのまにか眠り込んでいた俺をノエルが明るい声で揺さぶる。


「そろそろ皆さんが帰ってくると思いますよ。
 お迎えに行きましょう!」


半分寝ぼけていた頭が、皆が帰ってくる、の一言で一気に覚醒した。

降下が始まってしばらくしても誰かが戻ってくる様子がなかったので、
きっと完全降下するまで様子を見ているんだろう、という話になったんだった。

降りたのを確認してザオ遺跡を出たなら、もう着く時間らしい。


もつれかける足を必死に前後させて、
アルビオールから正反対の位置にあるザオ砂漠側のケセドニア出入り口を目指す。


そして目的の場所が見えてくると同時に、砂漠の向こうから来る人影にも気がついた。
俺はすぐさま表情を輝かせて強く地を蹴り、見えた青色の軍服に向かって走る。


「ジェイドさーん!」


そのままの勢いで飛びつこうとすると視界の端で大佐の右腕がぴくりと動いたのを見て取り、
無意識のうちに額に掛かるであろう圧力を察して動きを止めた。



しかし、いつまで経ってもアイアンクローも鋭いニーキックも跳んでこない。
そうなるとかわされて地面にスライディングという展開になるのだが、大佐は避けてもいなかった。

広がるのは視界いっぱいの青色と、不自然な沈黙。

俺は抱きつこうと伸ばしていた両腕をしばらく漂わせたあと、所在無く引き戻し、静かに姿勢を正した。
おそるおそる盗み見た大佐はなんだか渋い顔をしている。


「え、えぇっ〜…と……」


背筋をじわじわと上る気まずさに視線を泳がせたところで、
突如おもいきり肩を叩かれた。 あイタ。


「いやー!ノエルも大丈夫だったのか!
 待っててくれたんだなー! 大変だったろごくろうさん!」


そこはかとない棒読みでそう言ったガイが、
そのままの勢いでスポーツマンのように俺の肩を抱いて無理やりぐるんと180度 方向転換させる。


「色々あったけどちゃんとルークがパッセージリング操作してくれたし
 こうして外にでたら無事 ルグニカ大陸も降下したし、いやあ良かったなー、ああ良かった」

「……お、おう」


いつだってさわやかな男のいつにない勢いに押されて歩いていこうとしたところで、
大佐がはっとしたように、申し訳ないがまた飛んでもらえるか、とノエルに言った。

気になることがあるという大佐の姿に、ちょっと嫌な予感がする。
アニスさんも言ってたけど、ジェイドさんがこういうってことは、きっと良くないことがあるんだ。


そうして皆でアルビオールに乗り込んだときには、もう大佐はいつもどおりで、
俺もさっきの奇妙なぎこちなさの事はすっかり忘れてしまっていた。









「パッセージリングが賞味期限か……」

「耐用限界な」


大佐の説明を聞いて呟く早々ルークに半眼でツッコまれる。
そうだった耐用限界。


それが具体的にどういう事なのか、考え出したらものすごく怖いところに行き着きそうだったので早めに思考を止める。
考えて何か実になるなら話は別だけど、俺の場合ただ結果しか浮かんできそうになかったし。

みんなはどうしたものかと話し合っていたのだが、
ちょっと途中で歯切れが悪そうに切り出したアニスさんの提案で、
イオンさまに会いにダアトまで行くことになった。



イオンさま、今どうしているんだろう。
無事なんだろうか。 ヴァン謡将の手が回ってないといいなぁ。


不安はたくさんあったけど、脳裏にあの柔らかな緑色を描いて、俺はちょっと微笑んだ。







父の葛藤、子の困惑。
ガイの言葉を受けてちょっと思うところがあったらしいジェイド。

しかしそのぎこちなさすぎる行動をフォローしつつ
このおっさん意外と生きるのに不器用だなぁと悟るオカンことナイスガイ。


サブイベント『セシルとフリングス』

「敵同士でありながら愛し合う二人……いいですねぇいいですねぇ!
    こういうのが愛ってものですよね大佐!」

ジェイド「あなたそういうの好きですね」

「そりゃもう! 素晴らしいじゃありませんか! 愛とか平和とか!」

ジェイド「そんなもんですか」

「ああもう、大佐は枯れてますー! だから結婚出来ないんですよ!」

ジェイド「……否定はしませんが、あなたに言われるとものすご〜くイラッとしますねぇ」


ごめんなさい調子乗りました。
(By.



意外と野次馬根性バリバリのビビリ。
うっかり口を滑らせてタービュランス。