【Act28.2-ひよこ一歩前へ。】






 「偽の姫に臣下の礼を取る必要はありませんぞ」


 「唱師アニス・タトリン。
  ただ今を以って、あなたを導師守護役から解任します」



色んなことを一気に起こすのがここ最近のハヤリなんだろうか。

どれもこれも起きる時は突然で、なおかつ怒涛のようにやってくるから、
俺は毎度足りない頭を必死に動かすハメになるんだけど。


「皆さんも、アニスをお願いします」



……そろそろオーバーヒートしそうです。




イオンさまはダアトに帰っちゃうし、ナタリアさんは元気が無いし、
アニスさんもどことなく落ち着かないしティアさんは考え込んでるし、

女性陣のおしゃべりが無いとまるで灯が消えたようで、釣られるように気が滅入ってくる。
しかもみんな俺ではどうしようもない悩みばかりだ。 ガイのように元気付けてあげる事も出来ない。

それでもってケセドニアまで崩落しそうだなんて、ああもう俺どうすれば。


ケセドニアを無事に魔界まで下ろすため、
大佐の案でパッセージリングを操作しにザオ遺跡へ向かおうとしていた俺たち。

途中で入ったアッシュ通信でオアシスにも寄る事になったようだけど、
ケセドニア出口にて足を止めて綺麗な笑顔で俺を振り返った上司を見て、俺もにっこりと笑った。


お留守番ですか?

「やあ理解が早くなってくれて助かります」


ぼたぼたと涙を滴らせつつ、そんなめっそうもありません、と震える声で返す。
こう何度も置いてかれればいくら俺でも展開が読めるようになる。


「貴方はここでアルビオールの到着を待って、
 エンゲーブの方々の避難等、ノエルの手伝いをしてあげなさい」


淡々と指示を出す大佐の声を聞きながら、口を開きかけては閉じた。
そして全ての説明を終えたジェイドさんが、面倒くさそうに俺を見下ろしてくる。


「……あ、の」


連れてってくださいって全力でごねたい。
砂だらけの地面を転げまわって泣きつきたい。

だってグランコクマで留守番するのとは訳が違うんだ。
あそこは“安全”だった。 でもここでは、なんの保障もない。

“安全じゃない”この場所でジェイドさんや皆と離れるのは怖い。


 
「俺がここに残されたってことは、俺はこの場所でやらなきゃいけないことがあるんです。」


ぐっと唇を噛んだ。
だけど、俺は。


 
(みんなを信じて、俺は、今の俺に出来る事をしよう。)


うつむけていた顔をいきおいよく上げる。

たぶん眉は八の字になってるだろうし、
泣きそうなのを堪えてるから口だって曲がってて、とてもじゃないが凛々しくとはいかない。


「……オレ、待ってます」


だけど俺は、イオンさまに言ったあの言葉を、嘘にしたくないから。


「だ、だからみんなっ、がんばってください!」


声は裏返りまくりで上司たちを戦地へ送り出す言葉としては
かなり迫力不足だったが、それくらいは許容してほしいところだ。



「…………」


おそるおそる見上げた大佐は目を丸くしていた。
真っ赤な瞳は少しの間まっすぐに俺をみすえ、やがて小さく息をつく。

そしてほんの少しだけ、笑った。
それは苦笑に近かったけど、なんだか柔らかくて、今度は俺が目を見開くことになった。


「頼みましたよ」


笑みと共に告げられた言葉に一瞬耳を疑い、
もういつもの完璧な笑顔に戻った大佐を見返して、キラリと表情を輝かせる。


「は、はははい! りょ、りょうかっ、了解しまちた!」


ああもう噛んだ!

だけどそんな事すぐにどうでもよくなるくらい嬉しい。
大佐が俺に任せてくれたんだ。





「俺 頑張ります、ジェイドさん!」



ケセドニアを出たみんなの背中を見えなくなるまで見送って、ひとり拳を握った。








怖い場所で仲間と離れるの嫌なアビ主。

大佐直属になる前の兵士時代は、色々と必死だったこともあって一応 怖い場所に一人でも何とかしてた。
でもジェイド付きになったら安心感でちょっと甘たれた男。 あらためて頑張ります。


そして絶対ダダこねると思っていたのでかなり驚いた大佐。
驚くやら、ちょっと生意気な感じでイラっとくるやら、


(微笑ましいやら)