【Act24-大暴走 イン セントビナー。】







セントビナーにあるマルクト軍基地。
俺たちがそこへ駆け込んだときには、マクガヴァン元元帥とそのご子息のグレン将軍が口論の真っ最中だった。

住民を逃がすべきか留まるべきかということで意見が真っ二つだったようだが、
ピオニー陛下から勅命が出ていることをルークに聞くと、街を離れる事に反対だったグレン将軍は渋々ながら了承した。


おもいきり顔を顰めているくせに、大佐が指示を出すとすぐに頷いて動き出した彼が俺たちの横を通り過ぎるとき、
俺が明らかにぶすくれたまま敬礼をすると、グレン将軍もまた嫌そうな顔でさっと敬礼を返して、部屋から出て行った。
隣で大佐が小さく溜息をつく。


お互い舌すら出しそうだった様子に、父である元帥が軽快に笑い声を上げる。
俺はその声を聞いて はっと表情を引き締めた。


「お、おひさしぶりです、マクガヴァン元帥!」

「もう元帥ではないと言っておるだろうに。
 いやそれにしても久しいのう! 前会ったときよりだいぶ大きくなったか?」

「あの、俺 六年前くらいからサイズ変わってないです」


そして元帥と最後にお会いしたのは一年前な気がします。
かつての名将に大変、大っ変失礼だと思うが、これはもしや、ボ……?

そんな不安を持って見上げた上司はいつもの顔で笑っていただけだった。
元帥がまた笑い声を零す。


「まぁまぁ、大きくなるのは体だけじゃないとな。
 それではわしも街の皆に避難の話を伝えてくるわ」


それだけ言うと、元帥は御年に見合わぬ機敏さで、息子同様に部屋を飛び出していった。

告げられた言葉の意味を理解できずに目を白黒させていると、
ティアさんの「私たちも手伝いましょう」の声が耳に届いて、俺も急いで身を翻らせた。




騒然とする町並みの中を歩きながら ふと横に並んだアニスさんが、
こちらを見上げて、めずらしかったね、と零した。


「なにがですか?」

リックが上官に態度悪いの」

「ああ」


グレン将軍とのことを思い出して、俺は表情を歪めた。
確かに彼も上官だからああいう態度を取るのはわりと心臓が凍る思いなのだが、
それでもあれを崩さない訳は一応ある。


「あの人はジェイドさんのこと嫌いですから」


すねたように呟くと、今度はアニスさんが「あぁ」と納得したように苦笑する。
その顔から、俺はふいと目をそらした。


「だから俺もあの人きらいです」


そらした視線を、空から、地面へ。
うろうろと落とした先で、歩くスピードに合わせて過ぎて行く花壇。

咲き乱れる色とりどりの花を見ながら、俺は不服げに口元を尖らせた。


「……でも、あの人は嫌いだって気持ちを真っ向からぶつけてくれるから、
 そのへんはジェイドさんのこと嫌いな人たちの中では、……いいと思う」


グレン将軍は、良くも悪くも真っ直ぐな人だ。
だけど正直に認めるのが少しばかり歯がゆくて、きらいだけど、ともう一度 最後に被せた俺をみて、アニスさんはちょっと意地悪く笑う。


「グレン将軍が大佐に感じてるのもそんな気持ちだよ~、きっと」


そしてそう言われてしまえば、俺はもう必死に作っていた渋い顔を崩して、情けなく眉尻を下げるしかなかった。









みんなに的確な指示を飛ばす大佐。
それを受けて動くみんなと、ルーク。

アクゼリュスのときの姿は見る影もない。
時折 大佐に聞きながら、でも自分で考えて、頑張って動いているルークの姿を見つめる。


そうして寸の間 物思いにふけっていると、
すぐに大佐から檄が飛んできて、慌てて子連れのお母さんの手を引いて外へ誘導した。
そうだった。 ルークが動くようになったからって俺が動かなくなってどうするんだ。


街の人間を全て避難させるには誘導側の数が絶対的に少なすぎるんだから、頑張らないと。




今いる人材をフル活用して作業を続けること、はや数時間。
まだだいぶ人は残っているけれど、それなりに流れが落ち着いてきたころのことだった。

あいつが現れたのは。


「ハーッハッハッハ! ようやくみつけましたよジェイド!」


世界一空気の読めない男が来た!!


街の中で誘導をしていた俺は、外へ促そうとしていた住民を慌てて呼び止めた。

一旦奥へ戻ってくださいとみんなを門から遠ざけてから、
戦闘の気配を感じ取るや飽きずに震えだした己の手を握り締め、門の外で奴と対峙する大佐たちのほうへ向かう。

だけど外の大佐たちと中の俺との間を阻むのは、あのでっかい奴。
意を決して、例のへんてこな譜業兵器の横を通り抜けようと、そっと足を踏み出した。

その間ディストと会話をする大佐の、昔からあなたは空気が読めませんでしたよねぇ、の言葉に密かに頷いてみる。
いや、昔は知らないけど。


ちなみに向こう側からは俺の姿も丸見えだ。 少し視線をずらせばディストもすぐ気づくだろう。
そのせいか、ルークが少しはらはらした様子でこっちを見ている。
大佐が気を引いてる間に向こうに行かないと。


「それよりそこをどきなさい」

「へえ? こんな虫けら共を助けようと言うんですか?」


抜き足、差し足、忍び足。
もうすこし、もうすこしでみんながいるほうに……!


「ネビリム先生のことは、諦めたくせに」



瞬間。



「……お前は、まだそんな馬鹿な事を ――!」




ばちり、と己の中のどこかがショートしたような音が聞こえた。




「ふざっけんなぁー!!」



気付けば自分が居る場所が譜業兵器と門の壁のあいだであることも忘れて叫んでいた。
しかし状況のまずさを認識できないくらいに、頭には血が上っている。

とりあえず向こうで大佐が何ともいえない顔でこめかみを押さえているのと、
ルークたちが慌てているのだけは見えた。


だが構わずに、浮く譜業椅子に座るディストをびしりと指差した。


「ジェイドさんは変わった! 変わろうとしてるんだよ!」

「……毎度毎度、本当に何なんですか? 貴方は」

「それをお前が邪魔すんなよ!
 ジェイドさんを好きなお前が、邪魔すんな!」


俺の存在に気付いたディストが、大佐に向ける視線とは正反対の冷たい目で見下ろす。
ぎゃんぎゃんとわめく俺の声を聞いて、やかましげに顔を顰めた。

そしてはたと何か考え込むように顎に手を当てたかと思うと、さらに眉間の皺を深めて俺を見る。


「ああ、思い出しましたよ。
 あなたジェイドがおかしくなる直前に作られていたレプリカですね」


さっき以上に嫌悪感の増したディストの目を真っ向から睨み返す。

正直いえばこのとき、俺の頭に言葉の意味は入ってきていなかった。
脳にあったことと言えば、ジェイドさんジェイドさんジェイドさんルーク、ジェイドさんジェイドさん、くらいのもので。

だから向こう側のどよめきも、すっかりまったく、これっぽっちも気付いてなかったんです。


「ジェイドさんは変わったんだ!」

「変わる? ネビリム先生を忘れる事が変わるということなら、私は認めませんよ」

「うるせー!
 おまえなんかブウサギに蹴られて全治三週間の怪我しちまえ!」

中途半端な優しさが かえって怖いですよ!! そこまでいったら死ねくらい言いなさい!」


ちょっと青い顔で椅子のひじ掛けを叩くディストを見上げる視界が、徐々ににじんでいく。

ルークだけじゃないんだ。
ルークが変わったことで、みんなが変わりだしてる。

みんなみんな。
ガイも、ティアさんも、……ジェイドさんも。


「せっかく変わろうとしてるジェイドさんの傍に、変われないヤツがいて足ひっぱったらダメなんだよ!」


ぼろぼろと零れるものをそのままに再びディストを睨み上げる。


「わ、私は……ジェイドの足なんて、引っ張ってません!」

「ちげぇよオマエがどうとか知るかよ俺の話だ!

「いつからあなたの話になったんですか!?」

「なんか途中からだよ!」


そこで一度ぐいと目元を拭ったが、またすぐにあふれ出してきた。

だって、ルークだけじゃないんだ。
ジェイドさんだって変わろうとしてる。頑張ってる。

俺だって。


「……かわりたいんだ」


ジェイドさんとルークの傍に、いたいんだ。


「だけどこのままじゃダメなんだよ! 足手纏いなんだ!
 俺もっ、オレも、変わらないと」


ちがう。
変わりたい。変わるんだ。

俺も、変わりたいんだ。


「だから、だからっ ―― うわあんチクショウこのハナタレディストー!
 ばーかばーか! 分かれよ!」

「んなななななぁんですってー!? 誰がハナタレですか この小者レプリカー!!」


ディストの雄叫びに反応するように動き始めた譜業兵器。

ここまでくると俺もやけくそだった。
腰に下げた剣を引き抜いて、目の前のへんてこロボットに切りかかるべく、思い切り地を蹴る。


「だぁりゃああ!」






どよめく数名の仲間と、驚かない数名の仲間。
そのどちらの反応にも納得して、ジェイドは軽く目を伏せた。

視界が瞼の裏に消える直前、ただ緑の髪の子供だけは、
驚きながらもどこか腑に落ちたような顔であの珍妙な譜業と切り結ぶ子供を見つめていた。


そして今の状況の頭の痛さを改めて認識してから、再び瞳に世界を映す。
数舜前と変わらぬ光景がそこにはあった。


「ちょっとちょっとっ!
 リックもレプリカってどういうことなワケ!?」

「……言ってませんでしたかねぇ」


混乱したように声を上げたアニス。
当の本人はそれどころじゃないようなので、代わりにさらりと答える。



そしてめずらしく自分の意思で無鉄砲に飛び出していった臆病者の姿に溜息ついて、
自分の周りにスプラッシュの構成を作り上げながら、ジェイドは すいと手を掲げた。








>さらりと答える。
いや、答えになってないし(Byアニス)

ディスト再び。キレるビビリ。ディストにはわりと強気です。
ジェイド大好きコンビの口喧嘩。 そして二度目の決意。


さらにフラグが立つとここからグレン将軍との友情夢、
「セントビナー ~グレンと俺と、ときどき元帥~」がはじまります。 すみません嘘です。