「私は一生、過去の罪に苛まれて生きるんです」
【Act22.4-(動き出す、思い。)】
ルークと、いつの間にか付いて来ていたミュウを先に部屋に帰して、広いロビーに今は俺と大佐のふたりだけ。
もう少し離れたところにはフロントの人間もいるはずなのに、
外の雪に音を喰われたかのような静寂が広がっている。
息をする事すら はばかられる空気の中で、俺はそっと視線を床に落とした。
ホテルへ戻った俺とルークを迎えたのは、俺を送り出した張本人である大佐だ。
そう思うとルークの行動は最初からバレていたのだろうと思うが、
そのことは教えていなかったから、ルークが気の毒なくらい驚いていたのが少し申し訳ない。
隣にたたずむ青い軍服は動かない。
だけど頭のてっぺんに僅かながら視線を感じて、俺は眉を顰めた。
責めても構わないのだ、と。
そう語っているこの沈黙が無性にやるせなかった。
(いつになったら、貴方は俺を しんじてくれますか?)
どうすれば、大好きだという言葉をありのままに受け取ってくれるだろう。
こういう形で受けた生を、運命を、最初から恨んでなんていないのに。
むしろ、俺は。
ひとつ ゆっくりと息を吐いて、顔を上げた。
そのまま隣を向けば、俺の視線はすぐ赤の双眸と交差する。
どんな恨みの言葉も受け入れようとばかりに静かな色をした赤に、俺はくしゃりと表情を歪ませた。
(いつになったら、あなたは、自分を ゆるしてあげられますか?)
あれだけ頭が良いのに、反面どうしようもなく不器用な人だと思った。
すごく嫌味で、いい加減で……真面目で、優しい人。
そして赤の瞳が怪訝そうに歪む。
「なんであなたが泣きそうなんですか」
理解に苦しむとばかりのその表情に、俺はめずらしく眉をつり上げて大佐を睨んだ。
まったくもう、本当に、どれだけ伝えてもちっとも伝わりやしない。
「大佐が、不器用だからですっ」
軽く怒鳴るように言ってから、涙ぐんだ目元を袖でぐいぐいと拭って、
もう一度 大佐としっかり目を合わせた。
「……そうしたら俺だって そうじゃないですか」
決して消えない罪を犯したというなら俺も同じだ。
自分のやらかしたことを忘れるつもりは無い。
だけど辛いばかりじゃ、辛すぎるじゃないか。
一生 罪とにらめっこを続けるなんて、あんまり哀しいじゃないか。
いや俺はどうあれ、ジェイドさんがずっとそうして生きているのは、寂しい。
でも、そう言ってもきっとジェイドさんは聞き届けてくれないだろう。
だから今は何も言わない。 余計な口は挟まない、けど。
「俺はジェイドさんのこと、大好きですからねっ!」
レプリカの生まれたきっかけも、犯した罪も、全部ひっくるめての今の貴方が好きなんです。
そんな気持ちを全部込めて、握りこぶしを作りながら大佐に詰め寄る。
すると案の定 額をがしりと押さえられて、それ以上 近づけなくなってしまった。
いつもどおりの反応に涙していると、大佐の溜息が聞こえた。
「……勝手になさい」
視界の端に見えた大佐は、困ったように顔を顰めていた。
いわれた言葉の意味を読み取って、目をきらりと輝かせる。
「はっ、はい! はい! はいぃ!!」
「やかましい」
「はぁい!」
もどかしい時もあるけれど、俺は元気です。 もとい、諦めません。
俺はぜったいに諦めません!
*
そして一夜明けて、昼間のロビー。
寝起きの気だるさを吹き飛ばそうと思い切り背伸びをすると、すこし頭が覚めたような気がした。
さっきタルタロスの点検が済んだとネフリーさんが伝えにきてくれたので、
俺達はいよいよグランコクマ……の前にローテルロー橋へ向かうことになる。
ネフリーさん、また会いたいなぁ。
いつか休暇をもらえたら、そのときはケテルブルクに来ることにしよう。
そんなことをつらつら考えていると、ふと違和感。
出発まで束の間の時間を各々 雑談や、いまだ残る眠気にあくびなんかをして過ごしている中で、
ふたつの赤の姿が見えないことに気付き辺りを見回した。
すると少し離れたところに二人の背中を見つけて、何やら話している様子に首をかしげながら歩み寄る。
「もし話したときには キツーイお仕置き、これも分かりますね?」
だが近づいて最初に耳に届いた言葉に、もはや条件反射でびくりと身を固めた。
「あ、ああ」
「はい、ですの……」
「結構です。 あと、」
顔を青くしながら頷いているルークとミュウを見ながら、
声を掛けようかちょっと迷っていると、突如振り返った大佐にぐんと襟首を引かれた。
「どうしても話したくなったらコレに話しなさい。
サボテンか何かよりはましでしょう」
「は、話がまったく見えません大佐ぁ!!」
涙目で首をぶんぶんと横に振る。
だが説明は為されないまま、大佐はポイッと俺を投げ捨てて颯爽とみんなのところに戻っていってしまった。
立ち尽くすルークを呆然と見上げる。
「ルーク、何の話だったんだ?
サボテンと俺の優劣が どう関係あるんだ?」
「いや、あー、なんつーか、ごめん」
ルークが片手を顔の前に立てて謝罪する。
もしかしなくても俺は とばっちり だったか。
わけのわからない展開に動揺していると、ふと照れ臭そうに頭をかいたルークが口を開いた。
「……要するに、なんかあったらに相談相手になってもらえ、ってことだよ」
言うが早いか脇をすりぬけてみんなのほうへ歩いていってしまったルークの背を見送って、俺は考える。
俺が、ルークの相談相手になれるとしたら、
それはものすごいことなんじゃないだろうか。
だって、それって、まるで。
(ともだ……)
考えかけたところで、はっとして首を横に振り、両頬を軽く手で叩いた。
俺、なに自惚れたこと考えてるんだ。
自分の立場を思い出せ、 一等兵。
気持ちばかり顔をひきしめて、先を行った二人の後を追った。
いろんなことが動き出す。
いろんなものが変わり出す。
スキット『恋人は……?』より偽 追加会話
ルーク「へっくしゅ! さみーさみー、腹がさみ〜」
ガイ「はぁ……どうして観光地の女性はみんな大胆に近寄って声をかけてくるんだ……」
「♪じぇっいどさんが ジェっイドさんで、
ジェイドさ〜ん〜〜〜♪」※
ナタリア「…………この顔ぶれだと、そういうことは本っ当に期待できませんわね……」
ロビーでの会話の名残で、
大佐がネフリーさんと出かけてしまってもアビ主ご機嫌。
※ジェイドさんのうた。
歌/
作詞/
作曲/
編曲/
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